Tuesday, December 23, 2008

経営者の視点

ワシントンDC近辺では、日本人の多くが利用しているケーブルTV会社の
一般的なチャンネルパッケージの中に"NHK World"というNHKの日本国外
向け番組を流すチャンネルが入っています。

思いの他忙しかった2学期も終わり、時々NHKを見る機会がありますが、
ある番組で昨今の米経済悪化の日本への影響について特集が組まれて
いました。特に米国の自動車市場縮小に伴う日本の自動車メーカー
の生産調整の影響によって、工場の派遣労働者が次々と契約を切られていく
様子が取り上げられており、その中で、ある派遣労働者ネットワークの代表が、
「メーカーは派遣労働者をJust In Timeで納入される部品と同じように
考えている」という批判をしていました。

米国のビジネススクールでは、基本的に「株主価値をいかに向上させるか」
というテーマに基づいてさまざまな授業が行われています。マーケティング
であり、ファイナンスであり、そしてJITなどを学ぶオペレーションであり、
株主価値の向上が第一義的な目的であり、一部Ethics等の授業以外では
株主以外のステークホルダーの利益を中心に考える機会は限られています。

特にオペレーションの基礎科目では、「需要等のVariabilityを如何に
マネージするか」ということと「その為に如何にFlexibilityの高い
オペレーションを実現するか」ということの重要性を学びます。これらを
製造業にあてはめると派遣労働者の割合を増やし、生産調整のバッファと
するのは当然のプラクティスであり、経営者という立場から見たときには、
最適解に近い行動だとという事になります。


そういう環境で既に約1年半を過ごした私としては、NHKを通じて垣間見られる
日本の状況について「日本の自動車メーカーは与えられた環境の中で正しい
経営判断をしている」と考える一方、そう素直に考えている自分に強い
違和感を覚えました。

数年前、私の小学校からの幼馴染のK君が、ある自動車メーカーで期間労働者
として働くために田舎から出てきていました。K君のことを考えると、
このような経営判断を100%支持できない自分がいるのです。

これはかつてのライブドア事件や村上ファンド事件の時に何度も話題に上った
「会社は誰のものか」という問いそのものなのだと思います。世界の中での
厳しい競争状態を考えると、効率的なオペレーションを保つことが絶対的に
必要なことは自明です。そうすると上述の通り、派遣労働者を生産調整の
バッファにすることもしかたがないともいえます。しかし、これだけ多くの
雇用が喪失することの社会的影響は甚大です。

ではどうすればいいのか。おそらく多くの経営者が日々悩んでいても
なかなか答えの出ない問いなのだと思います。

但し、一つ言えるのはやはりビジネススクールで学ぶ「株主価値の向上」
が唯一の目的ではなく、K君のような派遣労働者を含む従業員や地域社会
といった「その他のステークホルダーについても思いを廻らすというプロセス
を持つ」ということが経営者としてとても重要なのだと思います。
そのプロセスを経ることで、今回のような不況に直面したときのリスクを
派遣労働者に対してできるだけ前広に説明したり、政府や自治体と連携して
社会的な影響は出来るだけ抑えるようなことが可能になるのではないかと
思います。

以上のようなことは、改めてここに書くまでもないようなあたり前のこと
なのかもしれません。しかし、常に「株主価値の向上」を目的とした授業を
継続して受けていると、ともすればこのようなバランス感覚を失いがちに
なるのもまた事実だと思います。

卒業後は経営に近い立場で仕事をする機会も出てくると思いますが、
ビジネススクールの授業で習う経営技術が全てではないということを忘れ
ないための自戒の意味を込めて。。。

S.O.

Leaders Breakfast Series

Leadershipを学ぶ機会の一つして実業家、政治家の方を朝食会に招いて学生と懇談するMSB Leaders Breakfast Seriesなる面白いプログラムが当MSBにはあります。少し前の話になり恐縮ですが、先月11月半ばにSpain元首相、Aznar氏との会という貴重な席が当たり出席してきました。実業家のみならずこういった大物政治家を目の当たりにできるのも、Washington DCに位置するMSBならではでしょうか。学生は2年間の間に最低2回、このLeaders Breakfast Series(学生25名程度の小規模な会)と1回、Distinguised Leaders Series(大講堂での会)への出席が求められます。

Aznar氏はSpainの首相を2期(1996-2004)勤め、保守党としてBush政権の政策を支持し、Iraqへも積極的に関与する政策を取りましたが、最終的にこれが国民の反感を買い、また総選挙直前の爆弾テロの影響もあいまって2004年に政権を失いました。Spain出身の同級生によれば功罪は色々あるものの、経済面では非常に保守的なSpain経済界の構造を大胆に改革し、Spain経済のEUにおける存在感を大きくしたのは氏の功績によるものが大きかったということです。

Aznar氏ですが入室後、ひとりひとりと握手をしてくれ、1時間の会合中は出席者からの質問に丁寧に時間を作って答えてくれ、また折にふれ冗談も口にし雰囲気をやわらかくしてくれていました。南米からの留学生が出席者として多く、Spain語圏である自国が今後どのように発展すべきか、という質問が多かったのですが、それに対する回答として「規制の少ない自由主義経済が発展の根幹」と自己の信条を語る時にはやわらかい雰囲気が消え、迫力が増すのはやはり一国のリーダーを務めた人だからこそ、かもしれません。1時間はあっという間に過ぎてしまいましたが、1国の構造改革にLeadershipを発揮した方と間近で接する事ができた、貴重なひと時でした。